㊍10 森の避難所 私物語~ムーの記憶~

木曜日は「物語の時間で~すよ♪」ということで、私が書いた小説をお届けしています。

この作品は2017年3月頃に書いた作品です。

当時瞑想とかしたりするとこの作品に書いた映像が浮かんでしまいまして……そしてそれが日常生活でも消えない状況になってしまったので、浮かんでしまった映像をそのまま文章化した作品です。

どうぞお楽しみください。

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目次

 

10 森の避難所

 

僕はポケットからワープ装置を取り出すと、自宅を選択した。

 

自宅には親戚一同が集まって、まるで引っ越しするかの如く、家中いっぱいに荷物が集められていた。キャンプに行く程度の荷物で良いと僕は思っていただけに、驚いて父に尋ねると、父は怒鳴るように言った。

 

「明日でここは海に沈む。後から必要だったと思っても、もうここには取りに来ることができない。どれくらい長い時間、避難所に住まなくてはならないかも分からない。グウワ分かっているか?一族の使命は、生き残ることだ。何としてでも生き延びなくてはならない。そしてその後待ち受けていることを全力で受け止めなくてはならない。数年分生き延びる食料も必要だ」

 

スジャナティが彗星の存在に気が付いたあの日から、毎日が大きく変わっていた。

 

情報流通係である僕ら一族は死の選択肢は与えられていなかったため、避難所に行くか、宇宙船に乗り込むかの二択だった。しかし、アウワの家が宇宙船を選び、僕の家が西の避難所を選んでからというもの、僕の頭は正直アウワのことでいっぱいいっぱいだった。

 

彼女と別れるということが、日に日に近づく彗星よりも大きなことだった。だから、避難所での生活のことなど全く考えられないでいた。

 

「でも、どうやってこれを西の避難所まで運ぶの?ロンボロリヌ一台だけじゃ間に合わないでしょ?」

 

「夜明けまで、通常ワープが使えるようにフィールドレイクを外してもらっている。ロンボロリヌで行き来もするが、みんなは持てるだけの荷物を持った状態でワープ往復をしてくれ」

 

親戚20人で荷物を運んだとしても一人10往復は必要と思われる量がそこにあった。ワープは身体に負担を生じるため、国では1日3回と決められている。100㎞を超える長距離ワープであれば、1日1回だ。僕の家から西の避難所までは、2500㎞。体力が乗り切れるかが心配だが、やるしかない。

 

叔父とまだワープが使えない赤子はロンボロリヌに乗り込み、残りの者たちは、ワープを使って移動することになった。

 

「ここが避難所?」

ワープした場所は深い森だった。

 

まだこちらは日の明かりがある。

西の避難所は、植物たちの了解が得られないため、東のような施設は作れないということは聞いていたけど、正直もう少し整備はされているのだろうと思っていた。

杉と笹が鬱蒼と生い茂っているだけの森で、どうやって避難生活を維持していけばいいのだろう。ムーの科学技術を持ってすれば、せめてそれなりの設備は整っているだろうと思っていたのに、それらしきものは全くなかった。

 

父が避難所として指を指したのは、岩の隙間。つまり、洞窟だった。家にあれほどの荷物が準備されているのはこの為だったのか……。

 

誰も声には出さなかったが、想定外だったと一瞬で理解できるほどの心の動揺が周囲に走った。その動揺は風となり、森の中を駆け巡った。

 

この森のどこまでが避難所として機能しているのかは分からないが、見渡す限り僕ら家族以外の人の気を感じることはない。

 

「動揺している時間があるなら、荷物を運べ。時間はない。」

 

僕らは父の声に従って、自宅と避難所を体力が続く限りワープし続けた。

 

 

ワープは3回くらいまでは問題なくみんなやっていたが、5回を越えた頃からきつくなってきた。それでも僕らは、生き延びるための荷物を洞窟に運び続けた。

 

「フィールドレイクの稼働が始まるぞ」

 

全ての荷物を丁度運び終えた頃、父が森中に響く大きな声で叫んだ。ここがシールドで包まれた瞬間から、もう僕らはムーの都市部には戻ることができない。

辺りはすっかり暗くなっていた。都市部では聞いたことのない重低音な鳥の鳴き声が闇に響いている。

木の枝の隙間から、彗星が見えた。いつのまにか彗星は、また大きくなっていた。太陽くらいの大きさになって青白く輝いていた。

 

明日僕はどうなるのだろう。ワープ装置の画面に映るアウワの笑顔を僕はじっと見つめ、震える気持ちを押さえていた。

 

つづく

 

つづきは来週木曜日に公開です。

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