木曜日は「物語の時間で~すよ♪」ということで、私が書いた小説をお届けしています。
この作品は2017年3月頃に書いた作品です。
当時瞑想とかしたりするとこの作品に書いた映像が浮かんでしまいまして……そしてそれが日常生活でも消えない状況になってしまったので、浮かんでしまった映像をそのまま文章化した作品です。
どうぞお楽しみください。
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目次
もう辺りはすっかり夜になっていた。
アウワの出発は間近に迫っていた。
夜の時間帯の方が彗星がはっきり見えやすいため、出発は日没後に定められていた。ムーにある宇宙船3500台が一斉に飛び立つことはできないので、数秒おきに一台ずつ飛び立つこととなる。
「宇宙船の出発の時間がきちゃった」
アウワはポケットからワープ装置を取り出した。それはスマホのような形状をした道具で、画面に自分の行き先をセットすると、そこに瞬時に移動できるものだ。
「グウワもそこまで行ってくれるよね?」
僕は静かに頷づくと、アウワの手をさっきよりも強く握った。
僕らが宇宙船の場所に移動した時には、アウワの搭乗する宇宙船の乗組員たちはもう乗り込んでいた。すぐに乗らなくてはならないことは分かるのだが、僕はギリギリまでアウワを引き留めておきたい気持ちだ。アウワも乗り込もうとしない。
「アウワが逃げ出したんじゃないかって、話題になってるよ」
アウワと同じ宇宙船に乗るシュウワがおどけた感じでそばに寄って来た。シュウワも僕の幼馴染で、アウワといつも三人一緒だった。そして、彼もアウワのことが好きだった。いや、今も好きだろう。だけど、アウワは僕を選んだ。でも、今僕ら二人は別れて、シュウワと彼女は同じ宇宙船で旅立つ。
今は地球の一大事だと分かっている。でも、分かっていても、一番僕が嫌なのはこのことだった。僕が西の避難所で生活している間、二人はどんな時の重ね方をするのだろう。
こんな時に嫉妬なんて言う感情が沸き出てきてしまう僕のことを、長老方は人生の経験が足りないと一蹴するだろうが、僕は一蹴など軽々しくできない重要なことだと思っている。
「大丈夫だって、アウワはグウワのことが好きなんだから」
僕が口を出す隙もなく、シュウワは返答した。ムーでは、芽生えた感情は誰もがすぐに察知する。だから、嫉妬なんて感情はとにかく生み出さないように努めたいのだが、今の僕はそうもいかない。僕にはシュウワが勝ち誇っているように見える。
「グウワの気持ちも分かるけど、今そんな時じゃないって、お前が一番分かっているじゃないか」
シュウワはうんざりした顔で僕を見つめていた。
「グウワしっかりしろよ!絶対に生き残れよ。アウワや俺は、お前がどうなろうとも、絶対に生きなくてはならない。地球から離れた場所で、地球がどうなるのか観察しなくてはならない。西の避難所のシールドが弾けて、もしもグウワたちが死ぬことがあったとしても、僕らは絶対に生きている。僕らだけが残されることだけは、絶対にしないでくれ。地球のために、そしてアウワのために……」
ようやく僕は正気に戻った。こんな些細なことで嫉妬したり、センチメンタルになっている場合じゃなかったんだ。
シュウワに詫びた後、彼を抱き寄せ、額を合わせた。互いの持ち合わせている情報を再度交流させるために。
そして、最後にもう一度アウワを抱き寄せキスをした。その時、互いの中にある不安な気持ちが、この瞬間爆発しそうになっているのを感じながらも僕らは笑い合った。無理して笑い合った。
そして僕は言った。
「絶対に生きてるから。彗星のことが収まったら、一緒に国を造り直そう」
アウワは大きく息を吸った後、静かに頷いた。そして、シュウワと一緒に宇宙船の中に消えていき、しばらくして宇宙船は飛び立っていった。
二人が乗った宇宙船が肉眼で見えなくなるまで、僕は手を振り続けた。宇宙船の左側に輝く彗星は数時間前よりもさらに大きくなっていた。
つづく
つづきは来週木曜日に公開です。
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