木曜日は「物語の時間で~すよ♪」ということで、私が書いた小説をお届けしています。
この作品は2017年3月頃に書いた作品です。
当時瞑想とかしたりするとこの作品に書いた映像が浮かんでしまいまして……そしてそれが日常生活でも消えない状況になってしまったので、浮かんでしまった映像をそのまま文章化した作品です。
どうぞお楽しみください。
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目次
ピンクと紫色が混ざり合ったいつものムーの夕焼けの中に一つだけ今までと違うものが、昨日よりも大きく鮮明になって輝いている。
「ねぇ、グウワ」
広場のすみで僕の横に座るアウワは、胡桃を頬張り空を見上げながら、僕に尋ねる。
「何?」
「明日、彗星が地球にぶつかるのよね……?私、実感がないわ」
アウワはボソッと呟いた。
「俺も……全然ないよ」
全然と言ったら本当は嘘になるけど、でもやっぱり僕も実感はなかった。
アウワは僕と同じ情報伝達の一族に生まれた遠戚の幼馴染の女の子で、ずっと一緒の時を過ごしてきた。厳密に言うと、僕らはもう幼馴染ではなくなって、半年前から恋人になっていた。
アウワは今夜宇宙に旅立つ。僕らがこんな風に過ごせるのも今日が最後。いや今日と言うよりも、後数時間だけの話……。
最後の時間まで二人でいられるのは嬉しいけど、今日も沢山笑ったけど、でも、それだけでは、満足なんて到底できない。この先、この次にアウワと会えるのは一体いつのことになるんだろう……。
アウワは僕の横で空を眺めながらひたすら胡桃を頬張り続けている。
僕は、アウワが口に含もうとする瞬間の胡桃をパクっとした後、間近でアウワの瞳を見つめてみた。
どんなことがこの先あっても、すぐにアウワの事が思い出せるように……。
アウワは僕からの視線を外して、空を見つめる。そして、そのことをごまかすようにしゃべり始めた。
「金星より先に、あの彗星が見えるなんて……しかも昨日の彗星よりも何倍も大きく見える。本当に明日なんだね。みんなのはしゃぎっぷり見てると、嘘だと思いたいけど……」
アウワはまた胡桃を口に含む。アウワがしきりに胡桃を口に含む時、それは動揺を隠したい時だ。
さっき僕がアウワの瞳を覗いた時、アウワの心は「行きたくない。私も死にたい」と叫んでいたのを僕は知っている。
アウワもそれが隠しきれないのは知っているはずだ。でも、平静を装わなくてはならないことも分かっているのだろう。だから胡桃を口に含み、心をごまかそうとしている。
「踊ってる人たちのほとんどは、死を選んだからね。思い残すことがないようにしたいんだよね」
彼女も分かってることを、僕は僕だけがまるで知っているかのように話した。
そんな僕の偉そうな言い方がアウワのツボに入ったのか、アウワはお腹を抱えて笑い始めた。今日二人で何度も笑ったけど、こんな自然なアウワの笑い顔は今日初めてだ。最後に、アウワの本当の笑顔に会えて、僕は安心した。
僕は胡桃の殻をごそごそと鳴らしているアウワの左手を覆うように、自分の手を重ねた。
「元気でね。僕のこと覚えていて」
アウワは僕の瞳をじっと覗き込んだ後、彼女は安心した表情をして、「もちろん」と言った。
彼女は、僕の心の中にある「行きたくない。僕も死にたい」という気持ちを読み取ったのだろう。
「思っちゃいけないことなんて、ないのね」
少しはにかんで、笑った。
「僕らは生き残る運命なんだよ。この先何があるのか分からないけど、互いに地球のために尽力しよう。僕らができることには限りがあるけれど、力を合わせればきっと乗り越えられる」
アウワは静かに頷くと、僕の唇に自分の唇をそっと重ねてきた。このやんわりとした感触はこれで最後になるのだろうか……。そう思うと、やたら切なかった。
つづく
つづきは来週木曜日に公開です。
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